今や名古屋を代表する観光資源となっている名古屋めし。
2005 年の愛知万博を機にブームが本格化したといわれます。
それに先駆けて代表的ブランドを集めた“名古屋めしストリート”として人気を博してきたのがエスカでした。
当コラムでは、名古屋めしに詳しいフリーライター・大竹敏之が、エスカに出店する人気店の店主や担当者と対談し、出店のいきさつやブレイクの経緯などを語ってもらいます。

第 16 回 鈴波

▼「 名古屋めしはブームというよりも既に文化になっていると思います。その中で当社の魚介みりん粕漬にも光が当たっているのはありがたいですね」

名古屋めしの人気の高まりを心地よい追い風として受けてきました

鈴波 代表取締役社⾧ 青木茂夫さん
1973 年、愛知県岡崎市出身。早稲田大学大学院卒。外資系商社のスポーツ用品部門を経てナイキジャパンに入社し、スポーツマーケティング・ディレクターなどを歴任。2022 年に妻の実家の家業である1871( 明治4)年創業の大和屋守口漬総本家、鈴波に転職する。2023年10 月より両社の代表取締役社⾧に就任。

名古屋になかった漬魚という新しい食文化

――名古屋独特の漬物である守口漬。鈴波は、その老舗である大和屋守口漬総本家の魚介みりん粕漬のブランドという位置づけになりますね

青木さん「はい。鈴波は、大和屋守口漬総本家の先々代にあたる私の義父が1985 年に創業しました。栄にある本店から始まり、直営店舗として現在名古屋で3 店舗、東京で2 店舗を出店していて、いずれも物販と膳処(=レストラン)の併設店舗です。この他に、名古屋、関東の主要百貨店にも一部は膳処併設店として出店しています」

――守口漬は木曽川沿岸で栽培される細⾧い守口大根の奈良漬で、古くから名古屋の銘品として広く認知されていました。鈴波はそのノウハウを魚介に応用しようという考えで立ち上げられたのでしょうか?

青木さん「その通りです。⾧く培ってきた漬ける技術を何かに活かせないか、というのが発想の原点です。また、奈良漬の需要の先行きを考え、もうひとつ柱になる分野に挑戦しなければという危機感もありました」

▼一番人気の銀だら定食2,420 円(税込)。魚介のみりん粕漬はじめ、八丁味噌の赤だし、大和屋の守口漬、飲むお酢など、愛知の多彩な発酵食を味わえる

――商品開発や販売面でご苦労はあったのでしょうか?

青木さん「漬魚(つけざかな)というと全国的に辛めのものが多かったので、当社は守口漬同様に酒粕だけでなくみりん粕を活かし、甘くて食べやすい商品づくりを心がけました。また、漬魚という食品自体、名古屋ではほとんどなかったので、まずは大和屋をご存じの方に召し上がっていただこうと考えました。そこで物販の横でご試食いただけるようにと思い立ち、開業からそれほど時間をおかずしてその場でお食事できる膳処をつくったのです」

――最初から物販+飲食の併設だったわけではないのですね。そして、漬魚がまったく一般的なものではなかったとは!

青木さん「現在でも漬魚メインの店というのは全国でも珍しいのではないでしょうか。中でもみりん粕の漬魚を主力として販売しているのは当社だけだと思います」

――名古屋に新しい食文化をつくった、ともいえますね

青木さん「食文化をつくったとまでは言えるかどうかわかりませんが、これまでになかったものだから逆に勝機があるのではないか、なじみがなくても食べておいしいと感じていただければ行けるのではないか、という考えでした。みりん粕で漬けることで魚の生臭さがなくなり、“魚は苦手だけど鈴波は好き”というお声もいただくことが多く、ありがたく思っています」

▼売店スペースでは魚介の切り身のみりん粕漬けや粕漬のもと、粕酢などの発酵食品を各種取り揃えて販売する

名古屋めし&発酵食でもあるみりん粕漬

――名古屋めしは2005 年の愛知万博をきっかけに広く知られるようになりました。守口漬も名古屋めしのひとつに数えられ、そこから派生した鈴波のみりん粕漬もまた名古屋めしに関連するグルメといえます。万博当時、ここのお店にも好影響はあったのでしょうか?

青木さん「先代からは名古屋に注目が集まる大きな契機になったと聞いています。名古屋めしが注目されることでこの地域の発酵文化もクローズアップされ、その中のひとつとして守口漬も鈴波のみりん粕漬もあるという見方をしてくださる方もいらっしゃいます。名古屋めしの人気の高まりを、当社も非常に心地よい追い風として受けてきたと感じています」

――愛知県は今、「うまみ県あいち」をキャッチフレーズにし、醸造食文化を地域の魅力として大いにアピールしています。うまみは多くの名古屋めしに共通する特徴であると同時に、世界から見た和食の最大の特色でもある。もちろん、守口漬、鈴波のみりん粕漬の特⾧でもありますね

青木さん「愛知県は古くから醸造文化が根づいてきた地域です。その中に味噌があり、たまり醤油があり、酢があり、みりんがある。みりん粕を使う守口漬もみりん粕漬も、うまみを活かした発酵食品のひとつだと考えています。発酵食品は健康食という特色もありますから、世の健康ブームを受けてさらに名古屋、愛知の食の人気に火がついたら、と期待しています」

▼「前職の仕事柄、ゴルフやマラソンなどもやってきましたが、今は健康食をつくっているという大義名分があるのでつい食べてしまいます(笑)」

日本人に一番人気の銀だら。外国人に人気のサーモン

――名古屋、東京に5 店舗を展開する中で、エスカ店ならではの特徴はありますか?

青木さん「商品に関してはエスカ店限定や期間限定の商品など、他にはないもの、他ではあまり多く取り扱っていないものも販売しています。お客様は他のお店同様くり返しご利用くださる地元の常連様もいれば、スーツケースを持った旅行者、外国人の方々もと非常に幅広い。そのため、広い地域に向けての情報発信の場にもなっていると思います。
膳処では他店と比べてお酒がよく出るのも特徴です。出張から名古屋へ帰ってきて、あるいはこれから新幹線で帰ろうという方がここで一杯飲んでひと息ついて、というご利用が多いようです。こうした客層、ご利用の仕方はエスカという新幹線直結の立地ならではですね」

――エスカ店は特に外国人のお客様も多いようですが、日本人と外国人で人気の商品は異なりますか?

青木さん「膳処で一番の人気は銀だら定食なのですが、外国の方はサーモンのご注文が多い。国によってはなじみのない魚種もあり、やはりご存じのものでないと召し上がっていただくのが難しい。うまくプレゼンして日本のおいしい魚を食べていただけるようにすることはひとつの課題ととらえています」

▼落ち着いた雰囲気の膳処。ランチタイムは連日行列ができる

――青木さんはスポーツブランドから漬物の老舗に転職した異色の経営者ですが、そのキャリアを活かして今後どんなことに取り組んでいきたいと考えていらっしゃいますか?

青木さん「ずっと守ってきた手間を惜しまない商品づくりは引き続き徹底していきたい。一方で、デジタルやAI を導入することで、お客様の利便性はもちろん従業員の働きやすさも向上させられると思いますから、会社の文化を守りながら変えるべきところは変えていきたい。エスカ店は鈴波のおいしさを多様なお客様に知ってもらい広めていただける情報発信の場であると同時に、多様なニーズをつかむ情報収集の場という機能もある。その利点を活かしながら、今後は国内、さらには海外も含めて様々な場所に展開することも考えていきたいと思っています」

店舗情報

鈴波 エスカ店
鈴波4 番目の店舗として1995 年にオープン。売店ではエスカ店限定の商品、期間限定の商品も取り扱う。併設の膳処(レストラン)は30 席。定番の定食、御膳の他、月替わりの定食も。席の予約は不可。
Tel. 052-452-3239
売店 10:00~21:30、膳処 11:00~14:30(L.O.)・16:30~21:00(L.O.)

【聞き手】大竹敏之
名古屋を専門分野とするフリーライター。エスカの名古屋めし推しの取り組みについては著書『間違いだらけの名古屋めし』(ベストセラーズ)にも詳しい。著書はこの他、『名古屋金シャチさんぽ』(風媒社)『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店完全版』(リベラル社)など。
Yahoo!ニュースに「大竹敏之のでら名古屋通信」を配信中。
https://news.yahoo.co.jp/expert/authors/otaketoshiyuki