今や名古屋を代表する観光資源となっている名古屋めし。
2005 年の愛知万博を機にブームが本格化したといわれます。
それに先駆けて代表的ブランドを集めた“名古屋めしストリート”として人気を博してきたのがエスカでした。
当コラムでは、名古屋めしに詳しいフリーライター・大竹敏之が、エスカに出店する人気店の店主や担当者と対談し、出店のいきさつやブレイクの経緯などを語ってもらいます。
第 17 回 天むす千寿
▼「 観光で名古屋に来られる方は、外国人も含めて天むすのことをよくご存じ。これからは名古屋の人の間での認知度も高められるようアピールしていきたいと思っています」

津で生まれて名古屋でブレイクした三重県由来の名古屋めし
日本ダイニングサービス株式会社 代表取締役 東雅浩さん
1967 年、大分県出身。ベンチャーキャピタルに勤務するかたわら2003 年に起業し、日本ダイニングサービス株式会社を設立。三重県津市の天むす発祥の店「千寿」と業務提携し、2005年からスーパーや高速道路のSA・PA、商業施設などで天むすを販売する。2009 年、「元祖めいふつ天むす千寿」近鉄名古屋駅店を開店、2011 年に同エスカ店を出店する。
まかないから生まれて名物に
――天むすは名古屋めしのひとつにも数えられますが、現在名古屋で人気の天むすは、三重県津市の「千寿」が発祥ですね
東さん「はい。昭和30 年代初めに天ぷら屋として創業し、天むすはまかないのためにつくられたのが始まりです。忙しくて食事もなかなか取れないご主人のために、片手でつまんで食べやすく、かつ栄養も取れるよう海老天入りのおむすびを奥様が考えた、そんな思いやりから生まれました。それがお客様の目に止まり、ほどなく天むすの専門店になりました」
――「千寿」からのれん分けされた名古屋のお店が芸能人の間で評判になり、さらに天むす専門店がいくつもできたことから、名古屋名物として認知されるようになったことが、天むす=名古屋めしのひとつになったいきさつですね
東さん「名古屋名物のひとつになったことは確かですが、最近は津が発祥であることも広く認知されるようになってきたと感じます」
――私も津の「千寿」さんには何度もお邪魔したことがあります。女将さんが“名古屋で親しんでもらえていることはうれしいこと。その上で津が発祥だと知ってもらえればいい”と広い心で受け止めていらっしゃってありがたく感じています。ういろうや海老フライなど、名古屋めしの中には必ずしも名古屋発祥ではない食べ物もありますが、ルーツがはっきりしているものはちゃんと伝えたり、名古屋で特に人気を得た経緯なども伝えていきたいですね」
東さん「私も天むすを販売するようになってから、いろいろな方々にそれを伝えて周知に努めてきました。その成果が現れてきたと感じています」
――東さんご自身は、名古屋めしという言葉にどんな印象をお持ちでしょうか?
東さん「『名古屋めし』というワードには力強さ、エネルギー、集中、夢中といった印象を持っています。この地域は三英傑の出自であるなど古来から日本をリードしてきた力強いパワーにあふれていたのだろうな、と想像します。家康さんがこの地方から江戸へごっそり人を連れて行ったおかげで三河弁が現在の標準語の元になった、なんて話はとても面白く夢がありますよね。だとしたら日本の人口の3 割を超える関東民が、この地域に何かしら反応するのも偶然じゃないのかも・・・とも考えられます。その中で『名古屋めし』という言葉は多くの人々の興味を引く素敵な言葉だなぁと思っています」
▼天むすは1 パック5 個入り920 円。松阪牛肉まんも人気商品

女将の人柄に魅了されて天むすの販売に乗り出す
――どのようなきっかけで「千寿」の天むすを販売するようになったのですか?
東さん「私はもともと企業の再建再生事業に携わっていて、2005 年頃に三重県松阪市の冷凍食品会社を担当することになりました。事業を立て直すために何か魅力的な米飯の商材がないかと探していたところ、『千寿』の天むすの存在を知りました。おむすびに天ぷらを入れたものがそんなに古くから(昭和30 年代)あることに驚いて、それから何度も足を運ぶようになりました。
天むすのおいしさはもちろんですが、何より(先代の)女将さんの人柄に魅力を感じました。旦那さんのために天むすを思いついてそれを名物にまで育て上げてきた人生のキャリア、そして女性ですが男前という言葉が似合うお人柄。それに惚れ込んで、私にも天むすを売らせてください、とお願いしたんです」
――交渉はすんなり行ったのですか?
東さん「女将さんは手広く商売を拡大させようという気持ちはないようで、“東さんがやりたいなら(作り方を)教えるわ”という感じでした。ただ、私は桜海老の天ぷらやとり天などを入れたものもつくってはどうかとも提案したのですが、それは思い切りダメ出しされました(苦笑)。これが原点なのだから崩さず守って育てていく、という信念が非常に強い。そこにまた感銘を受けて、やらせてもらう以上は私もまたしっかり元祖の味を守っていこうという気持ちを強くしました」
本店と同じ材料を使い同じように手で握る
――本店の味を再現するのに難しさはなかったですか?
東さん「もちろん簡単ではありませんでした。空気のふくませ方によって口に入れた瞬間のほろりとほぐれる感じが左右され、握る人の手の大きさ、握力などによって出来上がりが微妙に変わる。その他、塩加減も非常にデリケートです。シンプルなだけにちょっとの加減の差が大きな違いにつながるんです。本店は女将さんが1 人で握っていますが、当社では直営2 店舗の他、スーパーなどでの卸売りもしていますから1 人で、というわけにはいかない。本店と同じように握れる職人を育てるのは本当に大変です」
――本店と同じように手で握っているのですね
東さん「当初は量産のためにオートメーション化も考えたのですが、やはり機械ではあの味と食感を再現するのは無理でした。現在、多い日は2000 パック以上をすべて手づくりしています。つくり方だけでなく、海老、海苔、油、きゃらぶきなども共同で仕入れていて、食材も本店と同じです」
――本店による味のチェックもあるのでしょうか?
東さん「本店の定休日には女将さんがよく名古屋に来られて、天むすを買いに来てくれるんです。始めた当初は先代の女将さんに厳しいご意見をいただくこともありましたが、今ではそういったこともないので納得いただけていると思います。私も食材の仕入れの関係で月に何度かは本店に顔を出していますし、いい信頼関係を築けていると思っています」
外国人は1 人1 パック、日本の若者は1 人1 個も
――エスカは外国人や若い旅行者のお客様も多い。買い方に何か特徴はありますか?
東さん「6~7 年前から外国人の方も増えてきたので、英語の表記も店頭に貼り出すようにしました。中国の方などがSNS で当店の天むすを紹介してくれていて、何もしないうちに広まっているようです。外国人の方は必ず自分用に1 人1 パック買ってくださるのが特徴。日本の若い方は5 人で1 パック買って1 個ずつ分け合うという食べ方もされています。エスカはたくさん名古屋めしの店があるので、いろんなものを少しずつ食べたいのでしょうね。
一方で、バスツアーやコンサートの楽屋のお弁当として、数十個あるいは数百個単位でご予約いただくこともあります。それでもやはり圧倒的に多いのは観光客、新幹線利用の移動予定の方々。私自身東京と名古屋を月に何度も行き来していて、帰りに車中で天むすと手羽先を買って缶ビールで一杯やるのが楽しみなのですが、同じようにしているビジネスマンの方をしばしば見かけます(笑)」
▼「エスカ地下街は名古屋地域における唯一無二の地下街。まさに名古屋めしを満喫できる街。エスカさんこそ名古屋めしブームを仕掛けた黒幕の一人ではないかと考えています!」

――今後の天むすの可能性、そして取り組んでいきたいことは?
東さん「天むすは、今では様々な場所で提供され、進化系といわれる新しいタイプの天むすもたくさん生まれています。その中で私たちは『千寿』ののれんに誇りを持って、原点を大切に、優しさがあふれる天むすをこれからもつくり続けていきたい。エスカ店に訪れてくださったお客様、名古屋から移動される方々のひとコマに天むすが寄り添えられるよう、心を込めてご提供していきます」
店舗情報

元祖めいふつ天むす 千寿本店 エスカ店
天むすの元祖、三重県津市の「千寿本店」の姉妹店として2011 年にオープン。本店直伝の秘伝の味を再現し、販売する。松阪牛100%の冷凍松阪牛肉まん(1 個500 円、3 個入り1450 円、6 個入り2800 円)。天むすに欠かせないきゃらぶきも販売し(100g700 円)、こちらはいつも早々に完売し、知る人ぞ知る隠れ人気商品となっている。
Tel. 052-453-1064
10:00~20:30
【聞き手】大竹敏之
名古屋を専門分野とするフリーライター。エスカの名古屋めし推しの取り組みについては著書『間違いだらけの名古屋めし』(ベストセラーズ)にも詳しい。著書はこの他、『名古屋金シャチさんぽ』(風媒社)『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店完全版』(リベラル社)など。
Yahoo!ニュースに「大竹敏之のでら名古屋通信」を配信中。
https://news.yahoo.co.jp/expert/authors/otaketoshiyuki












