今や名古屋を代表する観光資源となっている名古屋めし。
2005 年の愛知万博を機にブームが本格化したといわれます。
それに先駆けて代表的ブランドを集めた“名古屋めしストリート”として人気を博してきたのがエスカでした。
当コラムでは、名古屋めしに詳しいフリーライター・大竹敏之が、エスカに出店する人気店の店主や担当者と対談し、出店の経緯やブレイクまでの経緯などを語ってもらいます。

第 15 回 両口屋是清

▼「 和菓子だから、洋菓子だからこうでなければならない、ということはもはやありません。今のお客様がおいしいと思ってくださるお菓子をつくることが大切です」

名古屋の和菓子は中身で勝負!時代に合わせた新銘菓も

両口屋是清 代表取締役社⾧ 篠田尚久さん
立教大学を卒業後、商社勤務を経て1979 年、両口屋是清に入社。平成17 年より現職。新定番商品「ささらがた」の開発の陣頭指揮を取るなど、伝統を守りつつも和菓子の可能性を広げる新機軸も積極的に打ち出している。

駅西に地元の人を呼び込む理念に共鳴

――両口屋是清は1971 年のエスカ開業に合わせて店舗を出店されています

篠田さん「エスカは街づくりも含めた地下街開発で、新幹線で名古屋を訪れる方々を迎え入れるのと同時に、直営の駐車場も併設して名古屋の人が駅西地区に来やすくすることも大切な役割でした。そこに共鳴して出店を決めました」

――地元の老舗として、地域に貢献するという思いもあったのですね。百貨店内のお店や独立型の店舗など様々な立地やタイプのお店を出店されていますが、お客様の利用動向などでエスカ店ならではの特徴はありますか?

篠田さん「新幹線乗り場に近いという立地柄、お盆や年末に帰省される際、ご利用くださるお客様が多いですね。郷里のご家族、親類縁者に“名古屋にはこういうお菓子があるんだよ”とお土産にしてくださる。そこで、おいしいと喜んでいただけると次もまた、となる。名古屋の和菓子屋としてこれは非常にありがたいことです」

名古屋の和菓子に見る名古屋らしさ

――名古屋めしをはじめ名古屋の食が旅行者から注目を集めるようになったきっかけが2005 年の愛知万博だといわれます

篠田さん「愛知万博では、青柳総本家さん、赤福さんと3 社合同で会場内に出店し、予想をはるかに上回る売上でした。名古屋に来る方が増えたのでエスカ店も恩恵を受けましたが、何より会場の店が忙しかったという印象が強くて、万博を機に名古屋が変わったかとふり返っている余裕もありませんでした(苦笑)」

――両口屋是清の個々のお菓子が「名古屋めし」と呼ばれるわけではありませんが、「名古屋めし」という言葉は名古屋の特徴的な食文化全般を指すという意味合いも含みます。名古屋の和菓子は尾張藩政期の茶の湯を背景に発展してきたという点で、この地域にとって非常に重要な食文化のひとつです。和菓子にもそれぞれ土地柄があると思いますが、御社の和菓子の“名古屋らしさ”について教えてください

篠田さん「茶の湯とともに発展してきたというのはおっしゃる通りです。名古屋には京都から出稽古に来られ、さらにこちらに拠点を移され発展した茶家もあります。当社も茶事に使うお菓子をつくっていますが、“わびさび”といった日本独自の美意識を基本に進んできました。和菓子屋全体にその当時からの流れが残っていて、おのおのが持っている最も大事な幹にあたる部分、当社でいえばあんですが、その特徴をずっと変えずに現代にいたります」

時代の変化に合わせて変わる和菓子

篠田さん「一方で近年は、名古屋めしの影響もあってか和菓子屋も少しずつ変わりつつあります。何よりお客様がおいしいと思う感覚が変わってきているのですから、時代に合わせて変えるべきところは変えていかなければなりません。当社がかつて東京・ 表参道ヒルズに出店した和カフェ『R Style by 両口屋是清』では、クリームチーズのきんとんであんを包むきんとんフロマージュという商品を出したこともありました」

――和菓子は小豆、薯蕷(じょうよ=山芋)、寒天など植物由来の原材料が基本ですから、動物性の乳製品は本来使いません。にもかかわらずクリームチーズとは!

篠田さん「以前、クリスマスの和菓子をつくろうという話が出た際には、最初は職人たちに反対されました。ところが、お得意先のお茶の家元の『 いいんじゃないですか』のひと言で、『つくりましょう!』ということになった(笑)。今の時代、何が和菓子で何が洋菓子かなんて我々が枠を決める必要はない。極端な話、和と洋の区別が必要なのか?と思うんです」

――伝統を重んじるイメージが強い和菓子の超老舗である両口屋是清ですが、何と柔軟な発想!

篠田さん「ただし、先ほども申し上げた“幹”を守ることは大切です。逆にいえば幹がしっかりしていてこそ枝葉は自由に変えることができる。名古屋の和菓子屋はお互いがリスペクトし合いつつも他と同じようなものはつくらない。店によって同じようなあんはありませんし、あんと皮のバランスもそれぞれ独自のものがある。どの店も幹が確立されているから、これがうちの味だ!という商品がつくれるのです」

――名古屋めしも他の地域にはない発想や組み合わせから生まれたものが多いですが、地域の伝統調味料である豆味噌や溜まり醤油、そしてうま味重視という幹の部分を守っているから地元の人に愛されていると考えられます。また、同業者同士の横のつながりが強い、という話も多くの業界でよく耳にします。名古屋めしも名古屋の和菓子も、共通する部分は多いと感じます

平成の銘菓、新定番の「ささらがた」

――今や両口屋是清を代表する銘菓となっているのが「ささらがた」ですね

篠田さん「をちこちや千なり、旅まくらなど昭和に生まれた代表商品に続く、平成の銘菓をつくろうという思いで2009 年頃から開発に取り組みました。充てん式の羊かんではなく、素材を厳選して何層も重ねてあり、小型棹菓子の中に風景、情景、さらには季節感も表現するので非常に難しい。しかもそれを量産できるよう専用の機械から開発する必要もありました。加えて、食べ切りやすいサイズはどれくらいか社内で試食をくり返し、完成までに約3 年かかりました」

▼平成生まれの新定番商品「ささらがた」。食べ切りサイズの棹菓子で、季節に合わせた限定商品もひんぱんに登場する

――名古屋では、⾧くやっているお店でも新しい材料を試したり、新メニューを開発したりするケースが少なくありません。常に変化や進化を追い求める向上心は、これまた名古屋めし、名古屋の和菓子の共通点といえるかもしれません。今後さらに取り組んでいきたいと思っていることはありますか?

篠田さん「エスカはたくさんのインバウンドのご利用がありますが、海外に向けた発信がまだまだ不足しているのは当社の課題のひとつです。これは和菓子業界全体の課題でもある。鮨は今では海外でもヘルシーで付加価値の高い食文化として認められていますが、和菓子はまだそこにはいたっていません。また、近年は男性も甘いものが好きだと素直にいえるようになってきた。そこに向けた商品も大きな可能性があるのではないかと考えています」

――海外に向けた魅力の発信に男性に刺さる新銘菓。まだまだ伸びしろがありそうですね

篠田さん「とにかく五感に訴えたおいしい菓子をつくってお客様に喜んでいただく。そういう精神で、名古屋の人にも、県外や海外から名古屋に来てくれる方にも、おいしく召し上がっていただける菓子づくりに日々取り組んでいきたいと思っています!」

店舗情報

両口屋是清 エスカ店
両口屋是清は江戸初期の1634 年に創業し、尾張藩二代藩主・徳川光友公より「御菓子処両口屋是清」の表看板をいただき、代々御菓子御用を務めた老舗にして名門。エスカ店では、その代表的銘菓を取り揃える。同社の店舗では唯一、自動販売機を設置。千なりなどを1 個単位から取り扱い、営業時間外でも商品を購入できる。
Tel. 052-452-5811
10:00~18:00

【聞き手】大竹敏之
名古屋を専門分野とするフリーライター。エスカの名古屋めし推しの取り組みについては著書『間違いだらけの名古屋めし』(ベストセラーズ)にも詳しい。著書はこの他、『名古屋金シャチさんぽ』(風媒社)『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店完全版』(リベラル社)など。
Yahoo!ニュースに「大竹敏之のでら名古屋通信」を配信中。
https://news.yahoo.co.jp/expert/authors/otaketoshiyuki