今や名古屋を代表する観光資源となっている名古屋めし。
2005 年の愛知万博を機にブームが本格化したといわれます。
それに先駆けて代表的ブランドを集めた“名古屋めしストリート”として人気を博してきたのがエスカでした。
当コラムでは、名古屋めしに詳しいフリーライター・大竹敏之が、エスカに出店する人気店の店主や担当者と対談し、出店のいきさつやブレイクの経緯などを語ってもらいます。

第8回 喫茶リッチ

喫茶リッチ 店主 三井克子さん

両親が喫茶リッチをエスカに開業したのは小学生の時。90 年代初めから初代ママだった母親とともに店に立ち、2008 年に正式に事業を継承する。現在は⾧男の康平さんも一緒に店を切り盛りし、3 代にわたってエスカに欠かせない老舗喫茶を守っている。

開業当時は“エスカ冬の時代”

――喫茶リッチはご両親が始められたのですね

三井さん「父方の祖母が大阪で喫茶店をやっていたこともあって、脱サラしてこの店を開きました。母の実家が春日井市なので、一家で愛知県に越してきたんです」

――当時のエスカの雰囲気を覚えていますか?

三井さん「北側で今も残っているのは斜め向かいの『きしめん亭』さんと2 軒隣のお好み焼きの『タンポポ』さん。どこに何の店があったかも覚えていますよ。
当時は飲食店よりも物販店が多くて、婦人服の『鈴丹』『CABIN』や宝石店なんかもありました。今、『 若鯱家』さんが入っているところはCBC のサテライトスタジオで、浅野ゆう子が来たことを覚えています(笑)。でも、桜通側の地下街のユニモールやサンロードはテレビCM も流れていてにぎやかだったんですが、こっちはまだあまり知られていなかったのか、お客さんが少なくて、冬の時代でした。
特にこちらの北側は、歩いているのは予備校生ばかり。名古屋めしという言葉なんてもちろんなかったですし、名古屋名物がクローズアップされることもまだほとんどなかったですから、新幹線口といっても観光客が降りてくることはあまりなかったんじゃないかしら」

――お店に来ることは多かったんですか?

三井さん「いえ。当時の喫茶店はバーテンさんと呼ばれるプロのスタッフの方がいて、子どもが気軽に店にご飯を食べに行く、なんてことはありませんでした。店の近くには従業員用の寮があって、中学生の頃はそっちへはよく行っていました。家庭教師をつけられて、寮が勉強部屋替わりだったんです(笑)。それでも、高校生になると夏休みとかはよく手伝っていましたね」

▼初期の店内の様子。大きな観葉植物に木彫りの象が昭和のムードを感じさせる。通路に面する全面のガラス、南側までまっすぐ通路が延びる見通しのよさは現在も変わらない

おばあちゃんのお店でおいしかった鉄板ナポリタンをメニューに

――本格的にお店に入るようになったのは?

三井さん「いったん名古屋を離れた後、30 才を過ぎてからです。その頃はハンバーグのランチとかほとんど洋食屋さんのように手づくりのメニューをいろいろ出していました。でも、それだと仕込みが大変だし、経験と技術がある人しかできないので、鉄板ナポリタンなどに切り替えていったんです。ハンバーグは手がかかるとはいえ家でつくろうと思えばつくれますが、普通の家庭には鉄板皿がないから鉄板ナポリタンはつくれない。そういう喫茶店ならではのメニューを出した方が喜ばれるだろうと考えました」

――鉄板ナポリタンを取り入れたのは名古屋めしブームでリクエストが多かったから?

三井さん「大阪のおばあちゃんのお店で出していたんですよ。それがすごくおいしかったのでうちの店でも出せばいいのに、と思ったんです」

――鉄板スパは名古屋発祥が定説で私もさんざんそう書いていますが、大阪の喫茶店でも出していたとは!

三井さん「母には反対されたんですが強引にメニューにしました。そうしたらやっぱりすごくよく出るんです。万博(2005 年の愛・地球博)のころからはエスカ全体でお客さんが増えて、うちでも小倉トーストとかもよく出るようになりました」

▼「 名古屋めしのお店ばかりじゃなく、いろいろなお店があって、観光客の皆さんはもちろん、地元の人にも来てもらえる地下街であってほしいですね」と三井克子さん

2005 年の万博以降、モーニングに行列が

――近年は週末になるとモーニング目当てに行列もできていますね

三井さん「モーニングサービスはもちろん以前からやっていましたが、行列ができるのは愛知万博以前にはなかったことですね。周辺のホテルの方が“リッチさんはパンもコーヒーもおいしいですよ”とお薦めしてくれているそうで、ありがたいです」

――最近のお客さんの傾向は?

三井さん「 観光のお客さんが増えましたけど、古くから通ってくれる常連さんも多い。毎日のようにカレーを食べに来てくださるビジネスマンの方とか(笑)。エスカ開業時からずっと同じ場所にあるので、“昔、上の予備校に通ってたんだよ”という方が懐かしんで来てくれることもあります。
あとはガラス張りで中が見えるため安心感があるのか女性の1 人客も多い。女性が1 人でも入りやすいということは、どなたでも利用しやすいということ。うちのような喫茶店が目指すべきところなのでうれしいですね」

▼モーニング、ランチのメニュー。モーニングはドリンク代 (ブレンドコーヒー660 円)だけでトースト、ゆで玉子、ヨーグルトがついてくる。小倉トーストセット1400 円、鉄板ナポリタン1298 円、あんかけスパ1298 円などの「ナゴヤメシランチ」も人気

カフェじゃなく『喫茶リッチ』でよかった

――開業時からの変遷を見続けている三井さんから見て、エスカの魅力とは?

三井さん「コンパクトな中に何でもそろっているところ。大きさがちょうどいい。ぐるっとひと回りしてからお店を決めて、また戻って来られますからね。いろんなお店があるからお客様が選びやすく、いろんな過ごし方ができるのも魅力。
新幹線が遅れた時は、お客さんが一斉に降りて来てすぐにわかります。そんな時にうちは食事はもちろん、コーヒー飲んで落ち着いてもいいし、ビールだってあるし、時間をつぶしやすい」

――エスカという地下街においても喫茶店の存在は重要なのですね

「お客さんの世代・性別はオールマイティだし、利用の仕方もモーニング、ランチ、夜の食事にお酒とオールマイティですからね。そういう点では『喫茶リッチ』というネーミングの効果は大きい。喫茶とついていることで、誰でも、いつでも、というのがお客さんにも伝わりますから。それに、数年前にプリンをプリンアラモードに、ソーダフロートをクリームソーダに変えたら、レトロな喫茶店メニューだと伝わりやすくなるのか、途端によく出るようになったんです。
『 喫茶リッチ』なんて若いころは“ダサいなぁ”と思っていたんですが、いざ自分が引き継ぐことになっても『カフェリッチ』にしようとは思わなかった。今となってはこれでよかったかなと思いますし、名づけてくれた両親に感謝しています(笑)」

店舗情報

喫茶リッチ
エスカ開業の1971(昭和46)年から続く老舗喫茶店。山高帽に丸眼鏡の紳士のトレードマークも開業当時から変わらない。モーニングサービスからサンドイッチ、ホットケーキ、スパゲッティ、生フルーツジュース、クリームみつ豆まで豊富なメニューを取り揃える
Tel. 052・452・3456
7:00~20:30(L.O 20:00)

【聞き手】大竹敏之
名古屋を専門分野とするフリーライター。エスカの名古屋めし推しの取り組みについては著書『間違いだらけの名古屋めし』(ベストセラーズ)にも詳しい。著書はこの他、『名古屋金シャチさんぽ』(風媒社)『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店完全版』(リベラル社)など。
Yahoo!ニュースに「大竹敏之のでら名古屋通信」を配信中。https://news.yahoo.co.jp/expert/authors/otaketoshiyuki