今や名古屋を代表する観光資源となっている名古屋めし。
2005 年の愛知万博を機にブームが本格化したといわれます。
それに先駆けて代表的ブランドを集めた“名古屋めしストリート”として人気を博してきたのがエスカでした。
当コラムでは、名古屋めしに詳しいフリーライター・大竹敏之が、エスカに出店する人気店の店主や担当者と対談し、出店のいきさつやブレイクの経緯などを語ってもらいます。

第6回 珍串

▼珍串の「マスター」こと加藤高幸さん

「うちの味噌カツは酒のあてとして何本でも食べられるんです」

珍串 店主 加藤高幸さん
1949 年、愛知県豊田市生まれ。高校卒業後に名古屋の酒販店に就職。取引先だったエスカ地下街の居酒屋「珍串」の初代店主に請われて、1992 年に経営を引き継ぎ店主となる。気さくで明るい人柄で、常連さんらから「マスター」と呼ばれて親しまれている。

飲食店経験ゼロから42 才で居酒屋店主に

――「珍串」の看板ともいうべきマスターですが、実は2 代目だそうですね

加藤さん「そうなんです。でも前のマスターとは血縁でも何でもなくて、縁といえば同じ豊田市出身というくらい(笑)。僕はもともと酒屋の従業員で、ここはお酒を納品しに来ていたんです。たまに食べに来たり、なぜか皿洗いを手伝ったり(笑)。そうこうするうちに信頼されたのか、『店を引き継いでくれんか』と持ちかけられました」

――それ以前に飲食店の経験はあったんですか?

加藤さん「まったくない(笑)。でも、人としゃべるのが好きだし数字も好きだもんで、面白いかと思って42 才で脱サラしました」

――料理のつくり方などは前オーナーから教わったんですか?

加藤さん「一緒に仕事したのは一ヶ月だけ。でも教えてもらうんじゃなくて盗む。やってみせてくれるのを計量カップで計って、微調整して、そうやって作り上げたのが今の味噌ダレ。僕はもともと料理人じゃないので勘でつくるなんてことはできないから、水、醤油、みりん、砂糖・・・全部カップで計ってその通りにつくる。そうすれば他のスタッフでもできるし、常に同じ味になることを第一に考えてます」

――メニューはそのまま?それとも変えたのですか?

加藤さん「以前は揚げ物が大半だったのを、季節物や家庭料理をあれこれ加えました。ほうれん草のおひたし、キュウリの塩もみ、落花生の塩ゆで・・・。家で女房がつくってくれたおかずがおいしかったら『どうやってつくるの?』と教わったりしてね」

――引き継いでから経営は順調だったのですか?

加藤さん「僕自身がなれるまで5 年くらいは苦労したけど、新しいお客さんも付いてくれましたからね。僕は運がいいんですよ。ちょうどバブルが弾けた後くらいで、頭が沈めばしっぽが浮き上がる、みたいなもんで、大手が落ち込んだ代わりにうちみたいな小さなところにとってはよかったんです。(エスカにお客さんがいなくて)通路でキャッチボールができた時代もあった、なんていうけど、僕が始めた頃はそんなことはなかったですしね」

▼「お客さんにも仕入れの業者さんにも、うちに来てくれる人にはみんなにお得な気分を感じてもらいたい。『ありがとう』10 回言ってキャッシュ(現金)を1 回もらえばいいんですよ(笑)」

酒のあてにぴったりのさっぱりした味噌串カツ

――昭和50 年代の名古屋のガイドブックに「ソースを使わず“味噌たれ”を用いているのが珍しい」と珍串が紹介されています。当時はまだ味噌カツがあまり一般的ではなかったようです

加藤さん「特にうちは味噌ダレが甘くないですからね。少し酢を加えているんです。ごはんと一緒になら甘くていいんだけど、酒のあてにするならちょっとさっぱりしていた方が何本でも食べられる」

――「名古屋めし」という言葉がなかった頃から味噌カツをウリにしてきたわけですが、2005 年の愛知万博以降の名古屋めしブームの影響はありましたか?

加藤さん「味噌カツは定食で食べるイメージが強いのか、当初は定食を目当てにいらっしゃる観光のお客様が増えました。うちでも定食はあるんですが、味噌串かつは単品でも注文できるし、早い時間からお酒を飲んでいらっしゃる人もいるので、そういうのを見て、『こういう食べ方、楽しみ方もあるんだ』と皆さんが気づいてくれた。だから最近は、朝から居酒屋として利用してくれる方が多いですね。うちは時間制もないし、席料もないし、中休みもないから便利で使いやすいんだと思います」

爆笑問題・太田光さんから「しゃべりすぎだ!」

▼コの字のカウンターに小さなテーブルが2 卓で全18 席。常連も一見さんも分け隔てなく接する加藤さんの人柄で、誰もが笑顔に

――観光客もいらっしゃいますが、常連さんも多いですよね

加藤さん「8 割がリピーター。くり返し来てくれる人は120%僕とおしゃべりしたくて来てくれる(笑)。僕はここを始めた時から、『またここに来たい』と思っていただける店にしようと心がけてやってきた。だから食材はとにかくいいものを使う。ご注文を受けてからつくって出す。それがちゃんと受け入れられたおかげで、ずっと来てくれる方もたくさんいらっしゃいます。
でも、遠くから来てくれるお客様も本当にありがたい。最近もテレビで紹介されたのを見て福岡と高知からわざわざ来てくれた方がいて、『来てよかった!』と言ってもらえてうれしかったですね」

――名古屋の地下街でコの字カウンターの居酒屋は他にないですし、古きよき居酒屋らしい温かさや人とのやりとりがあるのが魅力ですよね

加藤さん「人類皆兄弟だから、常連さんも初めての人も同じようにサービスする。34 年前にこの店を引き継いで、今も毎日仕事があることがありがたいし、楽しくてしょうがないんですよ(笑)。常連さんには『何でいつもそんなにこにこして仕事しとる?』といわれます。ちょっと前にテレビの取材で爆笑問題の太田光さんが来て、『しゃべりすぎだ!』といわれました(笑)」

店舗情報

珍串
エスカ開業当時から営業する居酒屋。串揚げ、トンカツの揚げ物を中心に、どて煮などの名古屋めしや定食、刺身やおばんざいなどの単品メニューなど幅広く取り揃える。トップ画像の串かつ盛り合わせは1170 円(2026年1月時点)。味噌カツや串カツの味噌ダレは小鉢に別添えで、お好みの量だけつけて味わえるので、味噌カツビギナーにもお勧めしやすい。
Tel. 052・452・2588
10:30~22:00(土日祝は10:00~)

【聞き手】大竹敏之
名古屋を専門分野とするフリーライター。エスカの名古屋めし推しの取り組みについては著書『間違いだらけの名古屋めし』(ベストセラーズ)にも詳しい。著書はこの他、『名古屋金シャチさんぽ』(風媒社)『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店完全版』(リベラル社)など。
Yahoo!ニュースに「大竹敏之のでら名古屋通信」を配信中。
https://news.yahoo.co.jp/expert/authors/otaketoshiyuki