今や名古屋を代表する観光資源となっている名古屋めし。
2005 年の愛知万博を機にブームが本格化したといわれます。
それに先駆けて代表的ブランドを集めた“名古屋めしストリート”として人気を博してきたのがエスカでした。
当コラムでは、名古屋めしに詳しいフリーライター・大竹敏之が、エスカに出店する人気店の店主や担当者と対談し、出店のいきさつやブレイクの経緯などを語ってもらいます。
第4回 きしめん よしだ
▼吉田麺業代表取締役の吉田孝則さん

吉田麺業 代表取締役 吉田孝則さん
1931( 昭和6)年生まれ。吉田麺業4代目。中学生の時に終戦を迎え、工場は焼失し、町は焼け野原になった状態から復興を果たした。初めて飲食業にも進出し、持ち帰り用の乾麺とともに品質の向上に尽力してきた。
きしめんよしだ エスカ店店⾧ 吉田泰成さん
1995(平成7)年生まれ。2020(令和2)年、吉田麺業入社。本社勤務を経て2023(令和5)年からエスカ店勤務。「名古屋=味噌のイメージが強いが、きしめんもおいしいんだよ!ということをアピールしていきたい」と語る。
名古屋駅で他県の人においしいきしめんを食べてもらいたい
――「きしめん よしだ」で親しまれている吉田麺業。エスカでは飲食店として出店されていますが、もともと製麺が主なのですよね。
吉田孝則さん 「明治23 年、私より4 代前の吉田清兵衛が始めました。最初は生麺をつくっていたのですが、もっとたくさんの人に食べてもらえるようにと乾燥麺をつくるようになりました。戦時中は陸軍御用達でうどんを納めていて、当時はまだ珍しかったダイハツの車を配達用に購入して、桜通にあった陸軍の演習場まで配達していました」
――飲食店の出店はエスカが初めてだったのですか?
吉田孝則さん「エスカが開業した昭和46 年の3~4 年前に、西区にあったダイヤモンドシティから声をかけていただき飲食店を出したのが最初です。しかし、名古屋駅に店を出したいという思いはそれ以前からずっとあったんです。他県から来る人においしいきしめんを食べてもらえば、きしめんの知名度が高まるし、市内の製麺所や店全体のレベルも上がる。そんな風に考えていました」
――当時から味にはゆるぎない自信があったのですね
吉田孝則さん「今ふり返れば思い上がりだったと思いますが、絶対においしいものをつくるんだ!という思いは強かったですね。ちょっとでも麺の出来に納得がいかないと、市内にあった日清製粉の事務所まで自転車を飛ばして、先方の担当者と議論したり粉の状態を確認していました。それがほとんど毎週でしたから、先方には『うるさい若造がまた来た』と思われていたでしょうね(苦笑)」
きしめんのおいしさを追求し独自の機械を開発
――エスカには自ら手を挙げて出店することに?
吉田孝則さん「新幹線口に新しい地下街ができると知り合いが教えてくれて、その時にはもうテナントはほとんど埋まっていたんですが、場所はどこでもいいから出したいと思って応募しました。最初の店の場所は今より東の端の方でした」
――オープンした当時の手応えは?
吉田孝則さん「私は工場で麺をつくるのが仕事なもんですから、店での調理は他の従業員にまかせていたのですが、初日に食べてみて、これはダメだと」
――えぇッ!? それはなぜ?
吉田孝則さん「最初は出来合いのつゆで間に合わせていたんです。麺のゆで方なども納得行くものではなかった。これではダメだと、ダシを工場でつくるようにするなど全面的に見直しました」
――そこからクオリティの向上に取り組んでいったわけですね
吉田孝則さん「毎日必ず店に来て試食をして、ゆで方など細かく指示を出していました。材料にももちろんこだわって、小麦粉は愛知県産のきぬあかりを中心に様々な国産小麦を仕入れ、麺の種類によって配合を変えます。ダシはムロアジやサバなど複数の種類をブレンドした自家製のダシを削るところからつくり、店で使うダシは当日朝にひいたものを使っています。
きしめんの厚みも季節によって微妙に変えていて、ざるがよく出る夏はのどごしがよくなるようやや薄めに、温かいきしめんの注文が多い冬はもっちり感が出るよう少し厚めにしています」
吉田泰成さん「店舗では独自に開発した自動茹で麺機を使用しています。火力を調整した3つの釜を麺が自動的に移動していく仕組みの機械です。ゆでるのに通常は9 分かかるところを3 分に1 回生麺を投入できるので、3 分ごとにゆで上がり、常時ゆでたての麺をお客様にご提供できるのです」
▼エスカ店店⾧の吉田泰成さん。「正統派のきしめんの魅力を多くの人に味わっていただきたい」と語る

――機械も独自につくっているんですか?
吉田泰成さん「はい。当社で細かく指示を出して鉄工所に製作してもらっています。工場でもミキサーや熟成機など機械の大半はうちにしかない独自のもの。じっくり時間をかけて熟成や乾燥を行うなど、工程自体は手作業でやっているのとほとんど同様で、生産量を上げるために機械化できるところは機械化しているのです」
▼名古屋市中川区にある吉田麺業の工場。小麦粉と塩水のみでしっかりと練った生地を、時間をかけて熟成し延ばすことで、薄いきしめんでもコシがある仕上がりになる。昔ながらの手打ち麺の持ち味を特製の機械を使って再現している

今食べたきしめんを買って帰りたい、というお客さんも
――2005 年の愛知万博では多くの観光客が他県から名古屋にやって来ました。影響はありましたか?
吉田孝則さん「影響は大きかったですね。たくさんの地方の人にきしめんを知ったもらうことができました。当時はエスカ内にお土産品を集めた『のれん街』という店舗もあって、坂角(総本舗)さんのえびせんべい・ゆかりの次にうちのきしめんが売れましたよ。当時の小泉(純一郎)総理が万博の視察の帰りに立ち寄ってもくれました」
吉田泰成さん「今は、若い方から年配の方、ご家族づれ、外国人と本当に幅広いお客様が来てくれます。エスカは観光客が多いイメージがありますが、毎日のように通ってくださる方もいらっしゃいます。常連さんはいつも大体同じメニューを、観光の方は、夏は海老おろしきしめんが圧倒的に多く、あとは名古屋らしい味噌のメニューをご注文されることが多いですね」
――きしめんは名古屋めしの中でも最も歴史がある一品。その魅力や価値を伝えたいですね
吉田泰成さん「伝えたいですし、伝わっていると感じます。お帰りの際に『おいしかったよ』と声をかけてくださる方、つゆを最後まで飲み干して下さる方、『今食べた麺、買って帰れる?』とお土産にしてくれる方もいらっしゃるんです」
吉田孝則さん「とにかく『名古屋のきしめんはおいしい!』と思っていただけるよう、これからもこだわっていいものをつくっていきたいですね」
店舗情報
▼店内は48 席。カウンターやテーブルがバランスよく配され、1 人でもグループでも利用しやすい。店頭でおみやげ用のきしめんの販売も行う

きしめん よしだ
本社工場直送の生きしめんは、つやつやしてのどごしがよく、薄いのにもっちりしてコシがある。材料、鮮度にこだわったダシも香り豊か。メニューバリエーションも多彩で、冷たい麺のキュッとしまった食感を楽しめる海老おろしきしめん、具だくさんの五目きしめん、おかめきしめんなどが人気。
Tel. 052・452・2875
11:00~21:30(L.O21:00)
【聞き手】大竹敏之
名古屋を専門分野とするフリーライター。エスカの名古屋めし推しの取り組みについては著書『間違いだらけの名古屋めし』(ベストセラーズ)にも詳しい。著書はこの他、『名古屋金シャチさんぽ』(風媒社)『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店完全版』(リベラル社)など。
Yahoo!ニュースに「大竹敏之のでら名古屋通信」を配信中。
https://news.yahoo.co.jp/expert/authors/otaketoshiyuki












