今や名古屋を代表する観光資源となっている名古屋めし。
2005 年の愛知万博を機にブームが本格化したといわれます。
それに先駆けて代表的ブランドを集めた“名古屋めしストリート”として人気を博してきたのがエスカでした。
当コラムでは、名古屋めしに詳しいフリーライター・大竹敏之が、エスカに出店する人気店の店主や担当者と対談し、出店のいきさつやブレイクの経緯などを語ってもらいます。
第3回 コメダ珈琲店
▼コメダ珈琲店エスカ店を経営・運営するトラフィコーポレーションの富山敬彦さん

「全国から来るお客様が“コメダ=名古屋めし”と認めてくれたんです」
トラフィコーポレーション専務取締役 富山敬彦さん
1975 年、名古屋市生まれ。愛知県立旭丘高校卒、日本大学国際関係学部卒。広告代理店勤務を経て、2004 年トラフィコーポレーション入社。コメダ珈琲店の経営・運営の他、2010年に(株)アートブレッドを設立し、「ベーカリーピカソ」「カフェ&ケーキ PABLO」も手がける。
▼「 エスカはスタッフの皆さんもこまめに巡回していて、よく顔を出してくれる。テナント同士の交流も活発でチームのような一体感があるんです」

コメダの地下街1号店だったエスカ店
――トラフィコーポレーションは、コメダ珈琲店( 以下「コメダ」)のフランチャイジー(加盟店)として多くの店舗を経営・運営しているのですよね
富山さん「名古屋市内や愛知県内をはじめ岐阜、三重、静岡、滋賀、京都、大阪に30 店舗以上を出店しています。コメダのフランチャイジーの中では店舗数は一番多いと思います」
――エスカ店は2006 年オープン。コメダの地下街出店は初めてだったそうですね
富山さん「はい。当社としては13 番目の店舗です。コメダは郊外のロードサイド店が主体なのですが、当社ではその前年にイオンモール内にも出店していて、この時もショッピングモールのテナント出店はグループ初でした」
――今ではショッピングモール内の店舗も多いですが、御社の店舗が第1号だったのですね
富山さん「イオンモール出店の際は、周りのお店は全国展開するナショナルチェーンばかり。当時のコメダはポスターやポップ、伝票も当社ではPOS レジを導入していましたがほとんどの店は手書き。店舗数こそ300 店舗を超えていましたが、まだまだいかにもローカルの喫茶店でした。
それでも、ふたを開けてみるとお客様は『へぇ、こういうところにもコメダがあるんだ』と驚きつつもたくさん来て下さった。それが自信にもなっていたのですが、エスカは、地下街はもちろん名古屋駅という立地も初めてでしたから、不安も大きかった。私は中村区出身で、エスカは子どもの頃からよく自転車で来ていたんです。その頃はちょっと薄暗くて人もあまり歩いていないイメージで、出店を決めた当時も今ほどにぎやかではありませんでしたから、はたしてお客様が来てくれるのだろうか・・・?と」
1 人客が多くシロノワールなど名物メニューが売れる
――地下街の場合、ロードサイド店とは勝手が違うものですか?
「東京や大阪のいろんなカフェを見に行って、客層とか店内の通路幅とかを研究しました。
一番の違いはお客様ひと組の人数。ロードサイドのコメダは、午前中はご年配の方、午後には主婦などのグループが増え、休日はご家族連れも多い。対して駅前は1人2人の方が多いのです。そこで、従来のコメダは4 人がけのボックス席が中心のところ、ここでは他の店にはあまりない2 人がけテーブルをたくさん用意しました。」
――オープン後の営業状況は・・・?
富山さん「日ごとにお客様が増え、認知度も着実に広まっていきました。前年の愛知万博をきっかけに観光客が増えたことも好影響をもたらしてくれました。お客様はやはりおひとりのビジネスマンや、若者、行楽の方が中心で、短時間のご利用が多い。とにかくお客様の回転が早い、これもロードサイド店との大きな違いでした」
――売れ筋などにも違いはありますか?
富山さん「デザート、スナック類がよく出ます。『せっかく名古屋のコメダに来たのだから』と、皆さんシロノワールなど名物メニューをご注文されるのです。近年は本部が積極的に新商品を開発してSNS でキャンペーン情報を発信してくれ、エスカ店は特にそれに対する反応がいい。限定のシロノワールとか毎回短期間で売り切れてしまいます」
――2021 年にはエスカ店の隣にテイクアウト専門店も出店しました
富山さん「これもコメダ初の試みで、現在も唯一のテイクアウト専門店です。お店でゆっくりくつろいでいただくというコメダのコンセプトとは異なるのですが、場所柄持ち帰りしたいというご要望が多く、お客様の思いに応えることを優先して、本部も特別に了承してくれました。おかげ様でよく売れていて、エスカ店の行列の緩和にもつながり、2 店舗合わせてとても使いやすい店になりました」
▼エスカ店の隣にあるコメダ珈琲店TAKEOUT。通常メニューやテイクアウト可能商品に特化し、セルフサービスによるイートインも可能

ナショナルチェーン&名古屋めしの代表的ブランドへ
――名古屋発のローカルチェーンだったコメダは、2006 年に関西、2007 年に東京23 区内、2010 年に北陸、2012 年に四国、2013 年に九州と東北、2016 年に北海道とエリアを拡大していきました。時系列的に、まさにエスカ店以降、コメダは全国チェーンへと躍進していったことになります
富山さん「 エスカは新幹線口すなわち名古屋の玄関口ですから、新幹線から降りた時や帰りに乗る時、ちょっと時間があるというタイミングでも立ち寄っていただきやすい。オープン当初はコメダのことをご存じない方もたくさん来てくださり、モーニングやメニューのことをご説明するケースもありましたが、今では皆さんコメダを体験しに来てくれている。ここでコメダの認知度が他県へと広がり、ナショナルチェーンの仲間入りをするきっかけになったと思います」
――コメダ自体がすっかり名古屋名物になった感があります
富山さん「この連載のテーマ、『名古屋めしブームはエスカから始まった』というのは、まさに同感です。エスカ店を出店した際、コメダが名古屋めしを代表するブランドのひとつだなんて私たち自身は考えてもいませんでした。ところが、名古屋に来てくれたたくさんのお客様が、コメダを名古屋の喫茶店代表=名古屋めしと認めてくれた。私たちの店ができた時はまだ名古屋めしという言葉もそれほど浸透してはいませんでしたから、エスカが愛知万博の前後から戦略的に名古屋めしの店を集めてアピールしてくれたのは非常に先見の明がありましたよね」
――自分たちの意識にも変化をもたらしてくれたわけですね
富山さん「 昔はテレビで名古屋弁が流れていると、何となく気恥ずかしい気持ちがあったんです。名古屋という町に対しても、東京なのか関西なのかどっちつかずで中途半端なイメージを抱いていました。しかし、名古屋めしという言葉ができたことで、全国に誇れる食文化なんだ、コメダも全国の人に喜んでもらえる喫茶店文化なんだと思えるようになった。今では全国どこへ言っても、名古屋弁でしゃべっとるでね(笑)!」
店舗情報

コメダ珈琲店エスカ店
コメダ躍進のジャンピングボードとなったチェーン屈指の人気店。2006 年にオープンし、2011 年には店舗を拡張した。定番スイーツ、シロノワールのミニサイズは、ソロ客が多いこの店でのニーズをきっかけに考案されて大ヒットメニューとなった。
Tel. 052・454・3883
7:00~22:00(L.O 21:30)
【聞き手】大竹敏之
名古屋を専門分野とするフリーライター。エスカの名古屋めし推しの取り組みについては著書『間違いだらけの名古屋めし』(ベストセラーズ)にも詳しい。著書はこの他、『名古屋金シャチさんぽ』(風媒社)『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店完全版』(リベラル社)など。
Yahoo!ニュースに「大竹敏之のでら名古屋通信」を配信中。
https://news.yahoo.co.jp/expert/authors/otaketoshiyuki











