今や名古屋を代表する観光資源となっている名古屋めし。
2005 年の愛知万博を機にブームが本格化したといわれます。
それに先駆けて代表的ブランドを集めた“名古屋めしストリート”として人気を博してきたのがエスカでした。
当コラムでは、名古屋めしに詳しいフリーライター・大竹敏之が、エスカに出店する人気店の店主や担当者と対談し、出店の経緯やブレイクまでの経緯などを語ってもらいます。

第1回 矢場とん

▼矢場とん 代表の鈴木拓将さん(「矢場とん エスカ店」にて)」

出店当初は毎日店頭で「みそかつの矢場とんでーす!」と声出ししていました

矢場とんホールディングス代表 鈴木拓将さん
みそかつの「 矢場とん」3代目。ホテル勤務を経て 1998 年から家業に携わる。2001年5 月にオープンしたエスカ店では先頭に立って人気店に押し上げる。これを機に多店舗化を図り、現在は国内外に30 店舗を展開する。

▼「 バブルがはじけて、テレビがローカルの情報を積極的に取り上げるようになったのも追い風になりました」という鈴木拓将さん

バブル崩壊後、「地元」に注目集まり行列の店に

――今や押しも押されもせぬみそかつのナンバー1 ブランドの矢場とんですが、鈴木さんが店に入った時は、矢場町の本店1店舗だけだったのですよね

鈴木さん「はい。しかも、表通りから奥へ入った場所の決してきれいとはいえないような店でした」

――しかし、当時既にその名は知られる存在だった?

鈴木さん「90 年代から行列ができる店になっていました。きっかけはバブルの崩壊。海外旅行や高級なものより、身近な地元、地域がクローズアップされるようになり、紹介していただける機会も多くなっていました」

――ホテルマン時代も、お客様からの名古屋めしに対するリクエストは多かったのでしょうか?

鈴木さん「味噌煮込みうどん、ひつまぶしなどのおいしい店を教えて、という声は多かったですね。もちろんみそかつのリクエストもあり、『あんまりきれいな店じゃないですけど』とちょっといいわけしながら実家を紹介したりしていました(笑)」

――エスカに出店したのは家業に戻って3年目。当初から店舗を広げたいという思いがあったのでしょうか?

鈴木さん「味噌煮込みうどんの山本屋本店さんが20 店舗くらい出してすごく繁盛されていたので、うちも何店舗か出せば、“みそかつ=矢場とん”という存在になれるのでは、という気持ちはありました。また、私が子どもの頃は名古屋名物=きしめん、ういろうだったのが、この頃には味噌煮込みうどん、ひつまぶしもそこに加わるようになっていた。“名物って増えるんだ!”と驚いて、みそかつもそれに続く名古屋名物にできたら、という思いもありました」

▼矢場とんエスカ店。連日行列が絶えない今や名古屋の名所

エスカ店オープン!も最初は大苦戦

――その第一歩としてエスカを出店場所に選んだ理由は?

鈴木さん「何といっても名古屋の玄関口ですから。新幹線を降りてすぐに食べられる一番便利な場所じゃないですか。山本屋本店さん、鈴波さん、吉田きしめんさんなど地元のいいお店も多い。出すならここだ!と思っていました」

――夢と希望を抱いてのエスカ出店。思い通りに大繁盛・・・!となったのでしょうか?

鈴木さん「それが最初は苦戦しました。その頃のエスカの北側は、地上にある予備校の生徒さんしか通らない場所で、参考書を手に下を向いたままで目にも留めてもらえない。だから店頭に立って一日中声出ししていました。『みそかつの矢場とんでーす!』『矢場とんが名駅にもできましたーッ!!』って。周りのテナントさんから『うるさい!』と叱られたりしたんですが、お客さんがいないのはみんな一緒ですから(笑)、そのうちに他の店の皆さんも声出しに加わったりしてくれるようになりました」

――そうした努力が実を結び業績は上向きに?

鈴木さん「はい。エスカさんがその後、名古屋めしの人気店をたくさん誘致してくれたりして、エスカ全体で相乗効果がもたらされるようになりました。その他にも、愛知万博の開催で名古屋がメディアに取り上げられる機会が増えたり、生活倉庫がビッグカメラに変わって人の流れが変わったり、様々な要因がよい方向へ働きました。また、万博の前年にうちや手羽先の『世界の山ちゃん』が同時期に東京へ出店し、それまで味噌煮込みうどん、ひつまぶしだった名古屋名物にみそかつ、手羽先が加わった。名古屋名物のみそかつ=矢場とん、と認知してもらえるようになった効果も大きかったです」

▼「矢場とんエスカ店」開店当時の鈴木拓将さん。毎日店頭で呼び込みをしていたそう

目標は「みそかつをA級グルメに!」

――矢場とんは今では東京、大阪など全国各地に出店し、名古屋を代表する外食企業になりましたが、エスカ出店がその足がかりになった?

鈴木さん「それは間違いないですね。名古屋は日本のド真ん中で、エスカはその玄関口。他にどこにもない一等地です。コンパクトな中に名古屋めしのお店が集まっていて、ちょっとした観光地に行くよりずっと楽しいですよ(笑)」

――名古屋めしの代表格のひとつとして今後の目標は?

鈴木さん「みそかつってまだまだB 級グルメだと思うんです。というのも、例えばある店で食べて口に合わなかったら『みそかつはおいしくない』と誤解されてしまう。でも、カレーやラーメンはたまたまおいしくない店に当たっても、『カレーまたはラーメンはまずい』とは思わないじゃないですか。誰もがその料理の多様な魅力を知っていて食べ比べを楽しむ、そうなって初めてA 級グルメだと思うんです。その点、エスカにはみそかつを出すお店がうち以外に何軒もありますから、いろんな味を食べ比べてもらうことができる。他のお店とも協力し合って、みそかつ=A 級グルメと認めてもらえるように頑張っていきたいですね!」

店舗情報

矢場とん エスカ店
一番人気はグループ各店と同様、わらじとんかつだが、矢場町本店などと比べてメニューを絞り込んであり、その分提供スピードが早いのが特徴。常時行列ができるが、回転がスムーズなので、臆せず並んで! 名古屋土産となるぶーちゃんグッズも各種あり。
TEL. 052-452-6500
11:00~22:00(L.O 21:30)

【聞き手】大竹敏之
名古屋を専門分野とするフリーライター。エスカの名古屋めし推しの取り組みについては著書『間違いだらけの名古屋めし』(ベストセラーズ)にも詳しい。著書はこの他、『名古屋金シャチさんぽ』(風媒社)『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店完全版』(リベラル社)など。
Yahoo!ニュースに「大竹敏之のでら名古屋通信」を配信中。